キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー 第5号

書籍分類
龍谷−キャンベルシリーズ/Ryukoku-campbell Series
著者・編者
浜井 浩一
発行日
2011年3月31日発行
出版社
非売品

はしがき

龍谷大学矯正・保護研究センターは、2010年4月に組織改編を行い、研究部門だけでなく、30年余の歴史をもつ特別研修講座「矯正・保護課程」を教育部門として加え、さらに社会貢献をその役割として加えた矯正保護総合センターとして新たなスタートを切った。
そして、この『Ryukoku-Campbell Series』も研究部門におけるプロジェクトの一つとして引き継いだ。前号までにも述べてきたように、このプロジェクトの目的の一つは、刑事政策を含む社会政策に関する国際的な評価研究プロジェクトであるキャンベル共同計画(Campbell Collabolation: C2)と協力し、その成果を広く公表することにある。キャンベル共同計画は、社会政策の中で「何が(科学的に)効果があるのか」についてのエビデンスを集め、評価し、広めることを目的としている。当センターでは、キャンベル共同計画の日本語版ウェッブサイトの作成者であり、本プロジェクトの責任者でもある静岡県立大学の津富宏准教授を中心に、キャンベル共同計画の成果の中でも矯正・保護、つまり犯罪者処遇に関するエビデンスを中心に、評価報告書であるレビューの翻訳やウェッブサイトでの公表に協力してきた。さらに、政策決定者、実務家、研究者に対して、その成果をより身近なものとして活用してもらうために、レビューのなかでも、矯正・保護にとって特に重要であると思われるものを選び、ブックレット『Ryukoku-Campbell Series』として発刊している。
第5号に掲載するレビューとして選んだのは、「薬物依存者の犯罪に対する薬物置換療法プログラムの効果」と「ドメスティック・バイオレンスで有罪宣告を受けた者への裁判所命令による介入」の二本である。
「薬物依存者の犯罪に対する薬物置換療法プログラムの効果」は、薬物依存者に対するメサドン維持療法などの薬物置換療法、つまり、依存症からの回復や薬物からの離脱が困難な薬物依存者に対して、より有害性の少ない形(医療的に管理された状態)で代替薬物等を提供することで、薬物依存に起因する犯罪や薬物使用が本人や社会に対してもたらす有害性を低減させようとする試みの(犯罪抑止)効果を評価したものである。これまで、メサドン維持療法については、行政機関の報告書などでは有効性が指摘されることも少なくなかった。しかし、今回、より厳密な検証を試みたところ、メサドン維持療法は対照群と比較して有意に犯罪を低減することができないことが確認された。解説で津富も指摘しているようにメサドン維持療法の有効性を指摘している研究の多くは、治療前と治療中の犯罪の比較のみで結論を出している場合が多い。この手法では、疫学的にメサドン維持療法の効果を確認することはできない。メサドン維持療法が犯罪を有意に低減できなかったのに対して、ヘロイン維持療法については、犯罪を有意に低減させるなどその有効性が確認された。ここで注意が必要なことは、ここで使用された結果(アウトカム)指標は、再度の有罪判決、警察の記録、自己報告による再犯などであり、有効性の内容は、薬物依存者による犯罪の抑制効果だけである。薬物置換療法によるその他の効果(生活の質の改善や健康の回復等)については評価の対象とはなっていない。メサドン維持療法支持者のために一言付け加えるとすれば、レビューでは「メサドン維持療法は、犯罪減少に対しては優先すべき治療ではないが、解毒、治療共同体、カウンセリング、居住型治療、プラセボ、ウェイティング・リスト対照群に比べると、有望であることが見出された。その減少は有意なものではないが、メサドン維持の期間中は、治療前のレベルに比べると、非常に大きな犯罪行動の減少が見られた。」とコメントしている。
二つ目の「ドメスティック・バイオレンスで有罪宣告を受けた者への裁判所命令による介入」は、ドメスティック・バイオレス、いわゆるDVの加害者に対する裁判所の命令による強制的な治療的介入の有効性を再発防止という観点から評価したものである。結論から先に言うと、裁判所の命令による強制的な治療的介入の有効性には疑問があるということである。もっと率直に言うと効果がないのではないかということである。これも、先の薬物置換療法の場合と同様に、こうした介入の有効性を指摘する研究が多数存在する。しかし、その多くが、警察や裁判所に対する再発の通報を効果指標として使用している。解説で津富も指摘しているように、再発の通報には、加害者であると同時にパートナーでもある者の収監や裁判(経済的・心理的コスト)という結果が待っている。被害者は、こうしたコストを軽減させるためにできるだけ耐えて通報を回避しようとする可能性がある。それを裏付けるかのように、効果指標を被害者による自己申告とした場合には、再発防止効果は確認されていない。また、再犯効果を指摘した研究には、処遇から拒否された、あるいは、処遇を拒否した男性を対照群として用いた準実験研究が多いという点も指摘しておく必要がある。彼らは、そもそも治療を全うした人とは質的に異なる可能性がある。
上記の二つのレビューでは、いずれも、一般的な研究報告では、その有効性が指摘されていた介入(処遇)が、より厳密な評価を行うことで、その有効性に疑問が提示されている。キャンベル共同計画による評価研究の意義はまさにここにある。厳密な評価研究は、ときに現場レベルでの努力に冷や水をかける側面があるが、同時に、その厳密な評価に耐えて有効性が確認されているプログラムも少なくない。有効性が確認されなかったプログラムは、その原因を考察し、プログラムを改良したり、対象者を厳選したりすることで有効になる可能性もある。キャンベル共同計画の真の目的は、こうした不断の改善努力を促すことにある。  津富が記しているように、キャンベル共同計画の成果であるレビューは、これまでの研究を概観するような単なるレビュー(ナラティブ・レビュー)ではない。疫学の基本的な考え方にのっとり、レビューの計画段階から、対象やその方法が適切であるかの審査を経て、更に、メタ分析の方法など、レビューそのものが、系統的レビューとして適切であるかどうかの審査を経た上で公表される。読者には、この二つのレビューを単なる学術誌の論文の一つとしてではなく、膨大な時間と手間隙をかけた、現時点で最良のエビデンスであることを理解した上で、じっくりと読み、その成果を活用する方法を考えていただきたい。 


龍谷大学 矯正・保護総合センター
矯正・保護研究委員会 委員長
浜井 浩一

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