第3号に掲載するレビューとして選んだのは、「非拘禁雇用プログラムの効果:前科者の再犯率への影響」と「0〜17歳の青年の社会的、情緒的、行動的問題に対するマルチシステミック療法(MST)の効果」の二本である。これら二種類の介入は、犯罪や非行の主要な原因と考えられ、犯罪者や非行少年の処遇において常に介入の対象となってきた雇用と家族に焦点を当てたものである。
非拘禁雇用プログラムは、刑務所出所者に対する雇用支援などを含むもので、職業の斡旋だけでなく、職業訓練、就職ガイダンス、給付金の支給なども含む広範なプログラムを対象としている。ただ、最近の雇用プログラム研究にはレビューに耐えうるもの、つまり、無作為割り付け実験などの手法を取り入れているものが少なく、レビューの対象が1970年代のものを含む比較的古い研究となっている。結論は、レビューの対象となった一部の研究において、給付金の支給や26歳以上の者に対する雇用斡旋プログラムに効果が認められたものの、雇用支援的な介入が再逮捕率を有意に引き下げるというエビデンスは得られなかった。
マルチシステミック療法(MST)は社会的、情緒的、行動的な問題を持つ青年の家族に対して行われる家族に焦点を当てた集中的な心理療法的(家族療法・認知行動療法等)介入である。結論から言うと、MSTも、再犯率等を有意に引き下げるというエビデンスは得られなかった。
雇用支援にしても、MSTにしても、犯罪学的知見または犯罪・非行臨床的知見に基づいて考えた場合、共に犯罪や非行の原因をターゲットにしたものであり、効果が期待される介入である。刑務所からの出所者や少年院からの出院者が再犯をする場合、無職状態に陥っていることが多いし、青少年の非行の背景には家族内の葛藤や病理が存在することが多く、それらの解決が処遇上の重要な要素となる。つまり、これら施設から出てきた者に対する雇用支援や非行少年に対する家族療法的な介入は、理論的には、効果があるはずのものである。少なくとも、雇用や家族が再犯において重要な要因となることに対する実証的な研究は多数存在する。しかし、介入の効果に関するエビデンスが示したのは、両方の介入とも有害ではないが再犯防止には効果がないというものであった。これはどうしてなのであろうか。この答えは、今回のレビューからすぐに出てくるものではない。ただ、言えることは、雇用支援やMSTがまったく意味がないということではなく、こられのレビューで取り上げられた雇用支援やMSTのプログラムによる介入の効果がなかったということである。つまり、これらのプログラムが、質・量ともに十分に所期の目的を達していない可能性、具体的には、雇用支援が安定した雇用に結びついていなかったり、MSTが家族内の安定的な問題解決に結びついていなかったりする可能性が考えられる。ある意味では、中途半端な介入では不十分であることを示唆しているのかもしれない。いずれにしても、今後は、これらのプログラムがなぜ期待して効果を生みださなかったのかを検討しつつ、さらにエビデンスを積み上げていくことが必要である。いずれにしても、今回のレビューの対象となった非拘禁での雇用支援プログラムやMSTプログラムが再犯防止に有効であるというエビデンスは見出すことができなったという結論は重要であり、雇用支援にしても、MSTにしても、有効な処遇プログラムの開発を目指してさらに改善が必要であることは指摘しておく必要がある。
津富氏が記しているように、キャンベル共同計画の成果であるレビューは、これまでの研究を概観するような単なるレビュー(ナラティブ・レビュー) ではない。疫学の基本的な考え方にのっとり、レビューの計画段階から、対象やその方法が適切であるかの審査を経て、更に、メタ分析の方法など、レビューそのものが、系統的レビューとして適切であるかどうかの審査を経た上で公表される。読者には、この二つのレビューを単なる学術誌の論文の一つとしてではなく、膨大な時間と手間隙をかけた、現時点で最良のエビデンスであることを理解した上で、じっくりと読み、その成果を活用する方法を考えていただきたい。
龍谷大学矯正・保護研究センター基礎研究部門長 浜井浩一