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Ryukoku Corrections
and Rehabilitation Center(RCRC)

矯正・保護総合センター

キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー 第2号

書籍分類
龍谷−キャンベルシリーズ/Ryukoku-campbell Series
著者・編者
津富 宏
発行日
2008年03月31日
出版社
 
ISBN
not for sale

はしがき

第2号に掲載するレビューとして選んだのは、「非行・犯罪に対する矯正ブート・キャンプの効果」と「拘禁下における薬物濫用治療の犯罪行為に対する効果」の二つである。このふたつを選んだ理由も、前号同様に、ひとつが、一見とても効果のありそうなショック療法的要素を持つ処遇であり、もうひとつがカウンセリングや治療共同体(TC)といった根気のいる指導の繰り返しであるなど、好対照なプログラムであったこと。さらに、一方において効果があり、もう一方において効果がないという結論が導き出されるなど、結果の点からも好対照であったためである。また、この両者は処遇内容において重なる点も多く、その意味で、二つのレビューを比較検討することで、処遇効果について共通の要素を見出すこともできる点で有用であると考えた。 詳しい内容は、レビューを熟読していただきたいが、「非行・犯罪に対する矯正ブート・キャンプの効果」は、ショック拘禁とも言われ、半年程度の短期間、拘禁施設に収容し、そこで軍隊的な生活を送らせる処遇方法である。もともとブート・キャンプとは軍隊の新兵訓練を意味し、厳格な規律と生活スケジュールに加え、教官の命令には絶対服従の厳しい上下関係の中で、いわゆる娑婆っ気をそぎ落とさせ、一から性根をたたき直し、厳しい訓練に耐えることで自信をつけさせ、一人前の兵隊を育てることを目的としたプログラムである。軍隊経験のある世代が、アメリカの少年非行の原因は、徴兵制がなくなったためであると信じ、積極的な導入を訴え、連邦政府が補助金を出して支持をした結果全米に広まった。ブート・キャンプ処遇は、日本の矯正処遇とも共通点が多く、私も、法務省在職中に興味を持ってアメリカ各地のブート・キャンプを視察して回り、その成果を法務総合研究所資料43号「米国における矯正ブートキャンプ処遇」にまとめた。ブート・キャンプも、第1号で紹介したスケアード・ストレイト同様に、一見するととても効果があるように見える。私の研究でもそうであったが、インタビューをした参加者のほとんどは、キラキラと目を輝かせながら、「このプログラムに参加して自分も生まれ変わった」と語り、職員も、「少年たちの目つきが変わるなど、従来の矯正施設よりもとてもやりがいを感じる」と答えていた。しかし、レビューの結果を見ると、対照群と比較して再犯率は高くも低くもないという結果が示されている。ただ、スケアード・ストレイトと異なるのは、一般刑務所と比較して再犯率に差がないということであり、津富氏の解説にも、「矯正ブート・キャンプは、短期間の収容であるにもかかわらず、刑務所収容と同等の効果がある」との指摘がある。これをどちらも効果がないと読むこともできるが、このレビューだけで結論を出すことはできない。また、レビューの中では、結論は保留しながらも「規律や身体的訓練、軍隊式行動訓練、儀式などよりカウンセリングや他の要素に重点を置いたプログラムの方が、肯定的な効果をより多く示したことがうかがわれた」との指摘もあり、今後ブート・キャンプが存続するとしても、再犯防止に向けた改善の方向性を示しているのかもしれない。
その一方、「拘禁下における薬物濫用治療の犯罪行為に対する効果」は、拘禁施設内での薬物濫用治療プログラムの効果を、再犯防止と薬物の再使用防止の療法の効果について検討したものである。ここでは、薬物維持療法、カウンセリング、TCなど様々な処遇プログラムが比較検討されている。その結果、薬物濫用者の抱える様々な問題に対して強力に焦点を当てるような生活全般を構造化した働きかけであるTCにおいてのみ再犯及び再使用の両方に対して効果が認められ、カウンセリングについては、再犯防止のみに効果が認められ、再使用防止には効果が認められず、薬物維持療法については再犯防止にはまったく効果が認められず、再使用率に若干の減少が認められている。また、補足的な知見として、自発的に行われたカウンセリングの方が再犯防止にやや効果的であること、アフターケアを組み込んだプログラムの方が効果も増大しやすい可能性のあることなども指摘されている。さらに、このレビューへでは薬物指導を行っているブート・キャンプの処遇効果も検討し、ブート・キャンプが再犯を防止しないことを確認している。 ここからは私見であるが、この二つのプログラムの比較でも表れているのは、本シリーズ1号で紹介したスケアード・ストレイト・プログラムと認知行動療法の場合と同様に、犯罪者処遇においては、非行少年や犯罪者の内面(問題性)に焦点化した構造的な働きかけがあって初めて再犯防止が可能であるということであろう。キャンベル共同計画の系統的レビューは、1970年代以降神話となっている矯正処遇無効論を否定し、矯正施設内における治療的な処遇は再犯防止に効果を持ちうることを科学的に証明しているが、同時に、再犯防止を有効にするためには、犯罪性に焦点を当てた構造化された継続的な働きかけが必要であることを示している。