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Ryukoku Corrections
and Rehabilitation Center(RCRC)

矯正・保護総合センター

キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー 第1号

書籍分類
龍谷−キャンベルシリーズ/Ryukoku-campbell
著者・編者
津富 宏
発行日
2008年03月25日
出版社
 
ISBN
not for sale

龍谷大学矯正・保護研究センターの研究部門は,基礎研究部門と応用研究部門の二つに分かれている。基礎研究部門は,矯正・保護研究の基礎となるような方法論(統計などのデータやエビデンスの蓄積を含む)や理論に関わる研究を担当し,応用研究部門は,具体的な政策や処遇に関わる研究を担当している。
『Ryukoku-Campbell Series』は,基礎研究部門のプロジェクトである「矯正・保護における処遇評価」の成果の一つである。このプロジェクトの目的の一つは,刑事政策を含む社会政策に関する国際的な評価研究プロジェクトであるキャンベル共岡計画(Campbell Collaboration:C2)と協力し,その成果を広く公表することにある。キャンベル共同計画は,社会政策の中で「何が(科学的に)効果があるのか」についてのエビデンスを集め,評価し,広めることを目的としている。当センターでは,キャンベル共同計画の日本語版ウェッブサイトの作成者であり,本プロジェクトの貴任者でもある静岡県立大学の津富宏准教授を中心に,キャンベル共同計画の成果の中でも矯正・保護,つまり犯罪者処遇に関するエビデンスを中心に,評価報告書であるレビューの翻訳やウェッブサイトでの公表に協力してきた。今回は,さらに,政策決定者,実務家,研究者に対して,その成果をより身近なものとして活用してもらうために,レビューのなかでも,矯正・保護にとって特に重要であると思われるものを中心に選び,ブックレット『Ryukoku-Campbell Series』として発刊することにした。
第1号に掲載するレビューとして選んだのは,「少年犯罪者に対するスケアード・ストレイト・プログラム」と「犯罪者に対する認知行動プログラム」の二つである。このふたつを選んだ理由は,一つが,一見とても効果のありそうなショック療法であり,もう一つが認知や行動の変容という地味で根気のいる指導の繰り返しであるなど,好対照なプログラムであったことに加えて,一方において効果があるという,もう一方において効果がないという結論が導き出されるなど,結果の点からも好対照であったためである。
詳しい内容は,レビューを熟読していただきたいが,「少年犯罪者に対するスケアード・ストレイト・プログラム」は,非行少年に対する刑務所体験ツアーであり,刑務所生活の過酷さに加え,非行の延長線上にある受刑者の実態,つまり非行少年にとっての自分たちの来来に直面させることで,非行を続けることの問題性を自覚させる反面教師的なショック療法である。これは,一見とても効果的に見えるが,エビデンスは,このプログラムが単に効果がないだけでなく,再非行を促進するなど有害であること示している。その一方,「犯罪者に対する認知行動プログラム」は,犯罪者や非行少年に特有の「自分ばかりが非難されている」,「悪いのは自分ではなく周りの連中だ」といった被害的で歪んだ認知の問題性を理解させ,そうした認知パターンを修正すると同時に,その認知に基づいた行動(例えば怒りの表出)を変容させるためのスキルを反復訓練によって身につけさせようとするプログラムである。地道で根気のいる指導であり,派手さはまったくないが,エビデンスは,このプログラムが再犯防止に有効であること示している。
ここからは私見であるが,この二つのプログラムを比較してみると,「スケアード・ストレイト・プログラム」は,非行少年に,彼ら自身のなれの果てである受刑者と対面させることで,非行を続けることの問題性に気づかせること,別の言い方をすれば,「犯罪が格好いい」といった認知の歪みに気づかせることを目的としているといえなくもない。しかし,実際のプログラムは,単に非行少年の成れの果てと対面させて将来への不安を喚起しただけで,認知の歪み(犯罪者的思考)に気づかせ,それを修正し,認知や行動を変容させる訓練の過程が抜け落ちていた。ここから導き出されるのは,ショックを与えるだけの犯罪者処遇は,単に効果がないだけでなく,有害な影響を与える可能性があるということではないだろうか。犯罪者処遇に特効薬はない。しかし,エビデンスは,犯罪者の問題点にきちんと焦点化し,彼らの認知や行動を変容させるプログラムは再犯防止に有効であることを示している。
津富氏が記しているように,キャンベル共同計画の成果であるレビューは,これまでの研究を概観するような単なるレビュ一(ナラティブ・レビュー) ではない。疫学の基本的な考え方にのっとり,レビューの計画段階から,対象やその方法が適切であるかの審査を経て,更に,メタ分析の方法など,レビューそのものが,系統的レビューとして適切であるかどうかの審査を経た上で公表される。読者には,この二つのレビュ一を単なる学術誌の論文の一つとしてではなく,膨大な時間と手間隙をかけた,現時点で最良のエビデンスであることを理解した上で,じっくりと読み,その成果を活用する方法を考えていただきたい。

龍谷大学 矯正・保護研究センター 基礎研究部門長 浜井浩一