Need Help?

Ryukoku Corrections
and Rehabilitation Center(RCRC)

矯正・保護総合センター

キャンベル共同計画 介入・政策評価系統的レビュー 第9号

書籍分類
龍谷−キャンベルシリーズ/Ryukoku-Campbell Series
著者・編者
浜井 浩一
発行日
2015年3月31日発行
出版社
非売品

はしがき

龍谷大学矯正・保護研究センターは、2010年4月に組織改編を行い、研究部門だけでなく、30年余の歴史をもつ特別研修講座「矯正・保護課程」を教育部門として加え、さらに社会貢献をその役割として加えた矯正保護総合センターとして新たなスタートを切った。
そして、この『Ryukoku-Campbell Series』も研究部門におけるプロジェクトの一つとして引き継いだ。これまでにも述べてきたように、このプロジェクトの目的の一つは、刑事政策を含む社会政策に関する国際的な評価研究プロジェクトであるキャンベル共同計画(Campbell Collabolation: C2)と協力し、その成果を広く公表することにある。キャンベル共同計画は、社会政策の中で「何が(科学的に)効果があるのか」についてのエビデンスを集め、評価し、広めることを目的としている。当センターでは、キャンベル共同計画の日本語版ウェッブサイトの作成者であり、本プロジェクトの責任者でもある静岡県立大学の津富宏教授を中心に、キャンベル共同計画の成果の中でも矯正・保護、つまり犯罪者処遇に関するエビデンスを中心に、評価報告書であるレビューの翻訳やウェッブサイトでの公表に協力してきた。さらに、政策決定者、実務家、研究者に対して、その成果をより身近なものとして活用してもらうために、レビューのなかでも、特に、矯正・保護にとって特に重要であると思われるものを中心に選び、ブックレット『Ryukoku-Campbell Series』として発刊している。
第9号に掲載するレビューとして選んだのは、「繰り返し起る家庭内暴力に対する二次対応者プログラムの効果」と「施設内処遇に付された青少年の反社会的行動に対する認知行動療法」との二本である。前者は、加害者ではなく、家庭内暴力を警察等に訴え出た被害者に対する二次的対応の再被害防止効果を見たもので、後者は、これまで再犯防止に効果があると考えられていた認知行動療法について、それを施設内で実施した際の施設から退所後の効果をみたもので興味深い。どちらも日本の刑事政策を考える上でとても重要な示唆を含んだ内容となっており、ぜひご一読願いたい。
それでは各レビューのポイントを簡単に紹介する。
一つ目は、「繰り返し起る家庭内暴力に対する二次対応者プログラムの効果」である。これは、警察等の法執行機関に家庭内暴力の被害を訴え出た被害者に対して、当該法執行機関と協力しつつ、専門家が被害者の自宅を訪問して実施する二次的なプログラムの再被害防止効果に対するレビューである。プログラムの内容は、カウンセリングや職業訓練、福祉的なサービス紹介を通して、被害者に対して家庭内暴力の周期性や法的措置について理解させたり、シェルターの提供や転居に関する支援を行ったりすることで、被害者の自立を促し、再被害を防止しようとするものである。結論は、残念ながら、こうした被害者に対する二次的対応は、家庭内暴力の再被害に影響を与えないとなっている。唯一の救いは、こうした二次的対応によって、被害者の警察等への信頼が増すのか、事件を警察に報告しようとする意欲はわずかながら増加していることである。いずれにしても、被害者に対する情報や支援の提供による再被害防止プログラムにあまり効果が期待できないとすると、加害者を何とかしなくてはいけないということであり、矯正・保護の分野における、加害者に対する再犯防止プログラムの開発が急務である。
二つ目は、「施設内処遇に付された青少年の反社会的行動に対する認知行動療法」である。本シリーズでも認知行動療法が再犯防止に効果があるというレビューを掲載した。現在、認知行動療法は、犯罪者の再犯防止に有効だとして、北米やヨーロッパなど世界各国で実施されている。日本においても刑事施設を中心に認知行動療法を応用した処遇プログラムが性犯罪者等を対象に実施されている。しかし、これまでの研究には、認知行動療法とそれを実施する環境的文脈との交互作用をきちんと検証したものは少ない。つまり、これまでの研究は、閉鎖施設や開放施設あるいは保護観察中に実施される認知行動療法を一緒にして再犯防止効果が評価されていたのである。そこで、本レビューでは処遇環境を施設内処遇に限定した上で認知行動療法の(反社会的行動に対する)効果を評価している。加えて、本レビューでは、認知行動療法の対象を12歳から22歳までの青少年に限定している。さて、結論であるが、それほど大きな効果ではないが、施設退所1年後を評価した研究では、認知行動療法は反社会的行動に対して一定の効果があるとされている。ただし、施設退所2年後においては同様の結論は得られていない。ある意味、施設内処遇における認知行動療法には賞味期限があるということである。認知行動療法は、対象者の持っている犯罪性の中の認知・行動に焦点を当て、それを変容させようとするプログラムである。レビューには指摘されていないが、こうしたプログラムの賞味期限は1年間であり、その間に本当の意味での犯罪からの離脱、つまり立ち直りが必要だということを示唆しているのかもしれない。
これまでのブックレットで津富宏教授が記しているように、キャンベル共同計画の成果であるレビューは、これまでの研究を概観するような単なるレビュー(ナラティブ・レビュー)ではない。疫学の基本的な考え方にのっとり、レビューの計画段階から、対象やその方法が適切であるかの審査を経て、更に、メタ分析の方法など、レビューそのものが、系統的レビューとして適切であるかどうかの審査を経た上で公表される。読者には、この二つのレビューを単なる学術誌の論文の一つとしてではなく、膨大な時間と手間隙をかけた、現時点で最良のエビデンスであることを理解した上で、じっくりと読み、その成果を活用する方法を考えていただきたい。

龍谷大学矯正・保護総合センター研究委員長
浜井 浩一