團藤重光博士(1913年生)は、東京大学法学部教授(同法学部長)、日本刑法学会理事長、最高裁判所判事、東宮職参与、日本学士院会員、宮内庁参与などの要職を歴任され、2012年に永眠されました。戦前期から今世紀にかけて、学界のみならず刑事立法、裁判実務に多大なる影響を与え、後世の者が越えることが困難なほどの深い足跡を残されています。
團藤博士は、内外の書籍をはじめ、所属されていた大学や審議会などに関する各種資料、ノート、原稿、日記、手帳、写真、絵画、書簡類など、多種多様なコレクション(以下「團藤文庫」という)を持っておられました。これら一切の團藤文庫は、生前の團藤博士のご意思に基づいて、龍谷大学に寄贈され、現在はその全てが矯正・保護総合センター(以下「センター」という)において所蔵されています。
センターでは、設立当初から、福島至を代表者とした團藤文庫研究プロジェクト(以下「プロジェクト」という)を立ち上げ、調査研究活動を遂行しています。團藤博士が亡くなられた2012年末までには、全ての團藤文庫が搬入され、研究活動は本格化しました。プロジェクトには、刑事法学のみならず、法史学、法社会学、憲法学、アーカイブ学などの研究者10数人が、学内外から参画しています。
プロジェクトにおいては、團藤文庫の全体把握、各種史資料ごとの分類・整理、劣化史料への対処方法の検討など、基礎的な作業を行ってきました。これまで、書籍については、一部の古典を除き、概ね整理が終わりましたが、多数に及ぶ書簡類などには未だ手がついていません。
研究は、まず各参画者の専門や関心に応じたパイロット的研究を行っています。その成果の一部は、すでにセンターの『研究年報第6号』(下記新刊情報参照)に、「団藤文庫を用いた研究の可能性」として特集を組んで掲載しました。この特集は、「峰山事件の最高裁事件記録から」(福島至)、「瀧川事件異聞」(出口雄一)、「1940年代後半における監獄法改正作業の解明に向けて」(児玉圭司)、「團藤文庫における勝本文庫の位置づけ」(村井敏邦)、「團藤日記について」(太田宗志)の各論稿から成っています。
團藤文庫は、多分野にわたる内容を有するばかりでなく、団藤博士が活躍された時代に関する歴史資料としての価値も持っています。センター内部の研究に用いるばかりでなく、広く公開することや教育にも役立てるべきであると考えています。このため、2014年末に團藤重光文庫受贈記念展示会「わが心の旅路」を開催するなど、これまで2回の公開展示会を開催しました。
また、学生の教育に團藤文庫を役立てる観点から、2016年度には本学人権問題研究委員会研究プロジェクトの資金を得て、團藤博士の『死刑廃止論』を素材に、人権に関する授業研究を行いました。授業は大学1年次生を対象にし、龍谷大学、帯広畜産大学、舞鶴高専の3校で実施しました。この時の記録は、リーフレット「團藤重光の人権思想研究─人権教育における展開を目指して─」として、公刊しております(センターのホームページ團藤文庫プロジェクトからダウンロード可能)。
今後は、様々な領域の学問研究の要求に応えられるよう、より体制を充実し、できるだけ早く團藤文庫の公開にこぎつけたいと思っています。